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その後のF5

 大金を失うことを後悔しつつ池袋でニコンF5を購入したサンダー平山は、そのまま吾妻橋に向かう。有名な浅草のうんこビルにニコン販売のカイシャがあるのだ。まあ、別に大した用ではなく、単純にレポートを書くために借りていた機材を返却するためである。でも、ついでだから自前のえふごをブラ下げて行く。
 担当のハタさんと後藤さんというエライ人の前でF5を見せびらかす。とりあえずエバりまくるのだ。なにせ発売したてだからな。ほんとは初期ロットよりもある程度時間がたってから買いたいのだが、写真機家としての面目というものもある。
 一応新製品を買ってくれたことに感謝してくれた。まあ建て前上はそういうことにしておかないとサンダーは何を書くのかワカラナイから、カメラメーカーとしては感謝しなければならないのだ。
 実際サンダーのレポートは無法地帯であるが、それでもできるだけ正しくカメラを理解するように勤めている。少年時代にカメラ雑誌を読みあさっていたサンダーとしては、いい加減なことを書くライターはすぐにわかってしまうというカメラおたくの恐ろしさを十分知っているから、でたらめなことを書くライターにはなりたくないのだ。
 まあそれでもうっかりすると間違えてしまうこともあるからけっこう大変なのだ。それとデザインは個人的な好みの問題だし、操作性に対する評価は個人差があるからカメラを評価するのはとっても難しいのだ。決定的に悪いカメラというのはないし、かといって最高のカメラというものも存在しない。どれも一長一短があるのだ。
 カメラというものは使う目的によって長所となることも短所となる部分もある。ニコンF5のような大きいカメラは
「老人には重すぎる!」
 そんな文句をいう人もいるが、それは基本的に筋違い。F5の性能を出すためにはF5の大きさが必要だし、キヤノンEOS-1Nの性能のためにはあの大きさが必要なのだ。サンダーは小さいカメラが使いたいときは小さいカメラを引っ張り出すし、大きくても高性能のボディーが欲しいときは大きいカメラを使う。撮影目的もはっきりさせずにカメラを評価させることはできないのだ。
 たとえばサンダーはポートレート、というか女の子を撮るのが好きだから、おねえちゃんを撮るために便利なように考えてしまうが、同じ機能でも、ポートレートには便利でも、風景には不便だったり、スポーツでは使えなかったりすることもある。撮影目的を考えずにカメラを評価しても無価値なのだ。
 サンダーのF5は購入一週間後に出撃した。初陣である。昔だったら買ったその日に撮影してしまうところだが、最近はなかなか忙しくって思い通りに遊ぶことができない。せめて一回ぐらいテスト撮影をしてから出撃すべきだが、もともとカメラをテストするのが仕事だし、ニコンF5もすでにさんざんいじくりまわしているのでいきなり本番に使ってしまう。
 記念すべき初陣はフォトテクニックのお仕事である。サンダーのポートレート教室という連載企画は、読者の中から一人が選ばれ、一日中モデルを自由に撮影できるという豪華な企画である。場合によってはサンダーがレフを持ってくれるのだ。しかも3ぺージに渡って読者の写真が公開される。
 まあサンダーのお小言やおほめの言葉が付くというネックはあるが、プロのモデルを好きに撮影できるのはなかなか贅沢なのだ。この企画に参加するためには、フォトテクニックの写真コンテストにポートレート作品を応募し、優秀な成績を収めた人という選考基準がある。読者参加レポートというのは、あまり下手な人では、ほかの読者の参考にならないし、ぺージを埋めるのが苦しくなってしまう。やっぱり努力した人が認められなければ世の中真っ暗闇になってしまう。
 フォトテクの今回のロケは横浜で行われた。桜木町の駅前に集合。東横線の改札が待ち合わせ場所だが、改札に付く前にモデルくさいおねえさんを発見。今回はサンダーもどんなモデルが来るのか知らなかったから、気にしつつも改札まで行き、読者と編集の人と合流する。編集は普段はヨシダ君が担当なのだが、今回は他の仕事が忙しかったので、かわりにコーダさんが来る。
 コーダさんからそデルの資料を見せてもらったサンダーは、さっき目星をつけたおねえさんを思い出す。戻ってそのおねえさんを見るとやっぱり当たりくさい。モデルの資料には必ず顔のアップと全身の写真が写っているのだが、写真はうそつきであることを身をもって知っているサンダーはあまり信用していない。
 ただこんなときはお互いにプロだから、近づくと何となくわかるのだ。サンダーは相変わらず変な格好だからモデルに怪しまれる。普通おんなのこを撮るカメラマンは、こざっぱりしていてカッコ付けマンでなければいけないのだ。けして迷彩服を着て腹を突き出したおやじではいけないのだ。常識的に考えるとサンダーの正装はただの土方おやじ。
 でもちゃんとした格好をしている人は、サンダーはなんとなく信用できない。政治家や銀行員、お役人様。みんなばりっとしたスーツを着こんでいる。でも最近汚職事件や法の網をかいくぐるような事件をいっぱい起こしている。いいスーツを着ているほど信用しがたい人物なのだ。
 また最近話題になった自称デザイナー。8億円詐欺事件の犯人筆頭候補である。まあまだ確定したわけではないからホントは違うのかもしれないが、ともかく彼はファッション雑誌から抜け出したような、いかにもいかにもデザイナーという雰囲気を出していた。
 ともかくサンダーのモットーはまず怪しまれること。着ている服で信用してもらおうという発想はあまりにもセコ遇ぎるのだ。もっとも隙があれば女の子を裸にして写真を撮ってしまおうと考えているサンダーはやっぱり危ないオヤジなのだ。ただし無理やりひんむくとか押し倒すというようなことはしないようにしている。作品作りはあくまで精神的信頼関係が大切だからだ。
 ともかく桜木町駅を出発したサンダー様御一行は、ベイブリッジ方向に向かう。高速に乗ってしまえばあっという間だが、裏道を通ってのろのろと大黒まで行く。ベイブリッジのたもとである。もともとロケ地は直感勝負タイプなのでハンドルが向いたほうに撮影に行く。運転してみないとどこに着くのかわからないのだ。大黒は、この橋ができたころはべイブリッジを撮影するカメラマンであふれていたところなのだ。
 ニコンF5に最新型の85ミリF1.4。それと初代の80〜200ミリF2.8を用意する。予備のボディーとしてF4Sも持ってきていたが今回は結局使わなかった。初代の80〜200ミリは超ビックサイズで価格も40万円以上した。当然中古で掘り出した一本である。
 しかし天気はあいにく曇っていて真っ暗なのだ。という理由で撮影は85ミリF1.4に絞る。F2.8あれば一応大口径と呼ばれるが、サンダーの撮り方では暗くて晴れた日でないと使えない。ズームは便利だが、単焦点で動きまわることに馴れてしまえばズームのメリットはポートレートにはそれほどない。
 まず読者様が撮影を開始、適当に詰まってきたところでサンダーの番だ。
 サンダーのポートレート撮影法はまずカメラを完全にマニュアルにセットする。ピントも露出もマニュアルだ。測光モードはマルチパターン。入射式露出計で測光し、ザンダーなりのデーターを加味してカメラにセットする。
 入射式露出計を使いこなすのは難しいが、カメラの内蔵露出計でポートレートの露出を出すよりは簡単なのだ。それとサンダーはいろいろなカメラを使っているから、確実となる露出を見るためには単独露出計は欠かせないのだ。つまり自分の露出の基準だ。
 いろいろと考えて自分の露出を決めてからカメラを覗く。曇り空を背景としているから、いかにニコンF5のRGB測光といえども2段ぐらいはオーバーになっているはずだ。サンダーが普通のカメラマンと違うところは、入射式露出計プラスサンダーデーターで決めた値とカメラがはじき出すデーターを必ず見比べる癖がついていることだ。旧EOS-1だったら3段以上ブッ飛んでいてもいいような状況だ。
「おっ、おかしい。こんなの絶対に変だ! こんなのゆるせん」
 サンダーが長年の血のにじむような修行で得たデーターではじき出した露出値とニコンF5のデーターがぴったり合うのだ。こんなことはあってはいけない。テストで借りたニコンF5ではきちんと露出不足になった状況なのに、販売モデルはサンダーと同じデーターってどういうこと。
 くやしいからさらにプラス2/3ほど露出を増やして撮影する。
 その後いろいろと撮影したが、けっこうサンダーのえふご君はサンダーの露出に近い値をはじき出す。プラマイ0のときもあるしプラス1/3、つまりカメラのデーターのままで撮ると1/3ほど露出不足になるというデーターを出すのだ。こんなに当たってしまうとサンダーの立場はなくなってしまうではないか。とっても許せないのだ。
 キャパのロケでもF5を使ってみる。お題はズームレンズである。80〜200ミリF2.8クラスのズームレンズでも
「暗くてイヤ!」
 普段そう思っているサンダーとしては、あまりズームについてやりたくないのだが、みんなはズームを使っているので仕方がない。ポートレートを基準にすれば結局単焦点レンズに行き着かないとならないのだが、撮影会などではポジションが限定されるため、80〜200ミリF2.8も有効である。単焦点よりメリットを発揮できるのはこんなときなのだ。
 キャパロケは順調にいい天気である。ズームが安心して使えるのはいいが、冬場はすぐにタ方になってしまうのが辛い。のんびりしているとたいして撮らないうちに終わってしまうのだ。
 ズーム撮影に使ったのはニコンだけではないが、いまはF5が旬だからどうしてもF5がメインになる。天気のいい日の逆光。レフで起こしてニコンF4ならプラス1と2/3ぐらい捕正が必要な条件で入射式露出計を使う。メーターとにらめっこしながら、計った値から半段プラスにするか2/3プラスにするか迷う。一応プロとしてけっこう年数やっていても露出はあいかわらず悩む。ポートレートでは基本的に段階露出はしないから、最初に決める値が大切なのだ。
 F2.8開放で1/250秒。晴れた日の逆光気味の条件でレフを使うと大体こんな露出になる。ISO100のフィルムでそれよりシャッター速度を上げられる条件でポートレートを撮ってもなかなか使える写真にはならない。きちんと表情を止めるには最低でも1/250秒は欲しい。1/125秒以下で撮るときは動かないようなポーズを考えてあげないと表情ぶれをおかしやすいのだ。
 データーをカメラにインプットしてからファインダーを覗く。いつものパターンである。カメラのデーターをチェックする。
「あんれえ〜 またいっしょだよ。どうしてF5は露出が合うのかねえ?」
 まるで露出が合うことを犯罪であるかのごとくつぶやく。ぽやく。二つ併せて「サンダーのつぼやき」というのだ。
 露出計が優秀になることは喜ぶべきことだが、プロとしてのコケンというか、長年の習慣として、カメラの露出計はポートレートには露出が合わないというのが持論だったから、カメラが優秀に成りすぎるとがっかりなのだ。まあ、ともかく単独露出計いらずのカメラというは、長年の夢であったから盛大に誉めなければいかない。
 むうっぅ、納得でけん。
 もっとも正確に評価するためにはもっといろいろなパターンで撮影してみなければならない。風景やスナップでの露出が合っているかどうかわからないし、ポートレートだって状況によっては合わないかもしれない。
 F5欠点捜索の旅に出なけれぼ。決意を新たにカメラ遊びに興じるサンダーなのであった。