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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

三社祭のカメラ
 5月17日18日の土、日両日、浅草三社祭にいってきた。三社祭は御輿(みこし)の祭りと言われていて東京三大祭りの一つ、東京在住のかたなら多分ご存知だろう。三社祭は浅草神社の祭礼である。浅草神社は浅草の観音様と境内つづきだから観音様の祭礼と思われているが、まあそんなものなのだろう。

 私が講師をしている写真学校では、例年この五月の祭りを一年生の撮影実習課題にしているから、実習指導で、もう10年くらいつづけて浅草神社詣でを続けている。

 今年は例年よりも見物客も多かったが、カメラマンの数も目立ったようだ、土曜日の正午を目指して町内の御輿(みこし)が浅草寺観音堂裏の広場に集まってくる。この広場に一〇〇台以上の御輿(みこし)がつぎつぎと集合して、あっという間に広場は御輿と御輿の担ぎ手たちで溢れてしまう。

 最初の御輿から10台くらいがつぎつぎ広場に入ってくるときが、一番写真が撮りやすい。広いところで撮ることが出来るから、御輿の担ぎ手たちを撮るのには絶好の機会だ。しかも御輿は次から次に現れてくるからこんな好都合はない。

 去年まで、この広場では比較的自由に飛び回って撮影できたのだが、今年はカメラマンが一杯で、カメラマンの壁が御輿を迎えるような形になってしまって、広い広場なのに身動き出来なくなってしまった。

 会場で顔見知りのアマチュア写真家たち何人かに出会ったのだが、今年は凄い混雑ですね、50ミリレンズ付きの一眼レフを持っているのは先生のところの写真学校の学生ですかと聞いてくる。

 いやー、うちの学校だけではなくて他の学校の学生もいるようですね、と返事をしたが、この土曜日、日曜日、たしかに学生たちだけでなくカメラを持った人たちは本当に多かった。アマチュアカメラマン大集合というところだ。

 日曜日に雷門のところで話しかけてきた夫婦の見物客は、先月、NHKのハイビジョン放送で昨年の三社祭を1時間の特集番組で観て素晴らしいと思った。ぜひ本番を見たいと思ってやってきたと言っていたし、静岡からやってきた知人のアマチュアカメラマン氏もTV番組に刺激されて一番電車できました。といっていたから、TVの番組が人気を煽り観客もカメラマンの数も増えたのかも知れない。

 私の写真学校だけで一年生、昼間の学生が250人、夜の学生が100人、それに私が受け持っている専科の学生などを合わせると400人ちかい学生がこの2日間、浅草のどこかで三社祭を撮影している。

 それにアマチュアの写真家たちが大変な数だ。この写真家たちというのはたんにカメラを持ってきている人という意味ではない。何らかの形で写真作品を作ろう、撮影しようという人たちだ。この人たちは一眼レフを使っているから自分たちの記念写真を撮ろうという見物の人たちとは一見して違う。アマチュア写真家たち、写真家の卵たちだ。

 土曜日午前、広場に御輿がやってくる前に会場を一回りしてみたら、相変わらずカメラを2台も3台も首やら肩やらに掛け、それに大きなバッグを持って、身動きの出来ないようなカメラマンがかなりの数いたし、ライカに望遠レンズを付けて見せびらかしが目的のような古いタイプのおじさんカメラマンも見うけられた。

 しかし大部分のカメラマンたちの持ってくる機材、いでたちが最近になって変わってきたように思う。以前はどこの祭り、撮影地でも機材をたくさん担ぎ、大がかりな格好でしっかり撮影しています。というカメラマンが多かったが、三社祭では老若男女を問わずカメラは1台、じつに身軽な服装の人たちが目立った。

 大勢は、スマートなカメラマン、カメラウーマンたちだった。カメラは一眼レフカメラ1台、ウェストバッグかリュックスタイルが多かった。服装も軽装だしスニーカースタイルだ。身軽に動き回れる格好だ。

 重武装、いかにもカメラマンですというスタイルが少なくなってきた。考えてみると風景写真などのように三脚を必要とするような撮影をのぞけば身軽に動き回れる格好が一番良い。カメラが重くて、もてあましてしまったら、カメラポジションの選択がいい加減になってしまう。だから目的に合わせたスタイルになってきたと言うことだろう。

 お祭りの撮影に、はじめてデジタルカメラを持って行った。撮影するよりは持って歩いたと言ったほうがよい。学生たちの実習指導が目的だから、本来、写真を撮っている暇はあまりないし。写真を撮らずに集まったカメラマンたちを眺め、どんなカメラを使っているのか、デジタルカメラを持っている人はどのくらいいるか、チェックしている時間のほうが長かった。

 去年まではほとんど見なかったが、今年はデジタルカメラが結構目立った。コンパクトデジタルではなくて、一眼レフ型デジタルカメラだ。

 新しいキヤノンのデジタルカメラEOS−10DとニコンのD100を使っている人をかなり見かけた。ほかに数人オリンパスのカメデアを使っている人がいた。去年は一眼レフ型デジタルカメラはほとんど見ることはなかったから、今年がアマチュア写真家ではデジタルへの切り替わり時なのかも知れない。

 私が声をかけた範囲では、デジタルカメラを使い始めたばかり、祭りがどう写せるか実験段階という人が大部分だった。デジタルですね、どうですかと聞くと、買って今日が初めて、テスト撮影ですという人に2人も出会った。

 一般の見物客が持っているカメラはコンパクトカメラがほとんどだが、これも気をつけてみるとどうも、デジタルカメラのほうが多かったと思う。一時流行った使い捨てカメラはあまり見なかった。不思議なのは日本人の見物客はもっていないが、外人の見物客は80パーセントがビデオ・ムービーを持ち歩いていた。

 新聞社のカメラマンは当然のことだがデジタルだ。

 プロの写真家風の人がたくさん居た。写真家風というのがわかりにくいが、あるいはベテラン風アマチュアカメラマンと言うべきかも知れない。持っているカメラは銀塩カメラで大口径ズームレンズ付きカメラを持っている人が多かった。

 こういう傾向だったと言っても、きわめてアトランダム、確実に調査をしたわけではないから、はっきりしたことはわからないし、断言は出来ないが、カメラマンのスタイル、使うカメラが変わりつつあることは確かなようだ。

写真説明
写真(1)日曜日 宮御輿・二乃宮が雷門を出る
写真(2)土曜日 町御輿・担ぎ手には若い女性が目立つ