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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

デジタルカメラ その2
 アマチュア写真の世界ではデジタル写真とどう向き合ったらよいのか混沌としているところがある。この1年間、写真月例会で講評を頼まれて毎月出かけているグループが6つほどある。それぞれにグループの歴史があり、特徴があって内容はまったくちがう。

 このグループの人たちのデジタル写真についての考え方のここ1、2年の間の変わりようは、多分、今大部分のアマチュア写真家の考え方と一緒だと思う。

 神奈川県藤沢市にあるこのグループは会員数50人ほどで、毎月の例会にいつも40人近い人が出席する。このグループは若い人が多いこともあって、月例会の写真をPCからインクジェットプリンターで出力した写真を出品する人が、半数くらいいる。

 2年ほど前まではこの月例会に出てくるカラープリントが、いかにも調整されていないデジタルで出力しましたとわかるような質の悪いプリントが多かった。しかし研究熱心な人が多く、最近では銀塩プリントと比較しても見劣りがしない写真が出品されるようになった。

このグループではほとんどがリバーサルカラーフィルムで撮影した写真を、スキャナーでPCに取り込んで、これをインクジェットプリンターでプリントする方法で出品するのが多かったが、最近はデジタルカメラ撮影のものも出てくるようになった。

 このグループの人たちは、色彩を変えたり、画面に写っている映像を消したり。画面を合成するなどデジタル加工することはやっていない。この手のデジタル写真は写真ではないと割り切っている人が多いからだ。だから今年、朝日の全日本写真連盟『日本の自然コンテスト』に、数年前流行したようなデジタル合成写真が上位に入賞するのを見て首をかしげている。

 審査する人たちにデジタル写真についてのしっかりした定見がないのではないかと言うことだ。自分たちは加工した写真は、グラフィック、イラスト、あるいはデザインの世界のものと割り切っているのに、これを写真にふくめるという考え方がわからないと言う。

 さらにこの人たちにとってわからないのは、地方や、県単位のコンテストなどで、いまだに写真をひっくり返してデジタルプリントであることを発見してデジタルプリントは駄目だなどと言っている審査員がいることだ。

 コンテストの応募条項にデジタル写真OKと書いてあるのは、たんにデジタル処理をしてプリントされた写真のことなのか、デジタル加工、消去して、いじくり回したグラフィックやイラストなどを含むのか、その辺がわかっていないのではといっているのだ。

 この月例会の人たちの写真作画についての考え方をみると、たしかに一部指導者と言われるひとたちのほうが大分遅れているように見える。

 この月例会のメンバーはなにから何まで、全部デジタルがいいなどとは思っていない。同じ写真を銀塩プリントとデジタルプリントでやって比較して、ここまでならばデジタルでOKとわかってやっている。

 数日前、アメリカで写真をやっているTさんという女性に会った。彼女はニューヨークに住んで写真作品をつくっている。渋谷の写真学校をおえ、ニューヨークの写真インストチュートに入って写真を勉強した。

 Tさんの話を聞くと、彼女たちの仲間をふくめてニューヨークで写真をやっている人たちのほとんどは、リバーサルで撮影したものを、コンピューターにファイルして、普通に写真を見るときはプリンターで出力して見るというの方法をとっているそうだ。

 写真を売り込みにいくためのアルバム、ファイルもプリンターで出力したものを持ち歩いているそうである。

 写真をデジタル加工して作品を作っている人たちもいるが、これはやはりグラフィックやデザインの世界、はっきり区別はされていないが、アメリカでも写真はストレート、手を加えずにプリントするのが一般的で、日本のようにデジタル写真、銀塩写真とあまり区別をしていないようだ。

 つまり方法の違いだけで、どちらも写真は写真とわりきっていて、これがあたり前の考え方になっているようだ。

 これは余分のことだが、今度帰国するとき、自分の写真をアメリカ式に全部ZIPでファイルして持ってきて弱ったと言っていた。米国では全盛のZIPが、日本ではほとんど普及していないのに驚いていた。日本では写真の保存ファイルはMOかCDだ。

 こういう話を聞くと、日本のアマチュア写真家たちがいま戸惑っているように見える現状も、1年もたたないうちに、デジタルをあまり意識しないように一般化していくのかも知れない。

 先月、朝日新聞映像センターの白谷達也氏に会って話をしたら、いま土曜日発行のb版の写真を担当していると言う。彼は朝日の写真関連の部署が映像センターに統合されるまで、出版写真部の部長をやっていた。

 新聞社ではデジタルが普通だが、b版の大きくつかう写真はリバーサルカラーフィルムを使っていると言う。新聞の印刷はいわゆるザラ紙と称する、あまり紙質がよくない紙にに印刷される。土曜日b版は普通の新聞紙より少し紙質は良いが、カラー印刷に最適とは言えない。

 そのb版に印刷して、一番良い印刷が出来るのはどういう方法かよいかやってみると、現在では質感表現という点でデジタルカメラ、デジタル写真よりリバーサルフィルムを使用して、製版印刷するのが最善だとわかったので、締め切りまで余裕のあるあの面に関してはリバーサルを使っているといった。

 デジタルカメラもデジタル写真もまだまだ発展途上だと思う。写真家はデジタル加工などに血道を上げずに、目的に応じて使えるものを使っていけばよいのだろう。