いろいろなストロボがある。これを使うためにはカメラと接続しなければいけない。ストロボはコンピューターでいえば周辺装置・機器と同じ位置ということになる。そう考えて見ると当然コンピューターと周辺装置を結ぶインターフェースの問題がでてくることになる。接点と接続コードだ。インターフェースの出来いかんがコンピューターシステムの使いやすさに大きな影響をあたえるのと同じようにカメラのストロボ接点も大切な問題なのだ。
ところで話はストロボからとんでしまうのだが、ほんとうにいいカメラの条件って何なんだろうかと考えてみる。まず性能だ。それにデザインの善し悪しもある。新しい機能が取り入れられていることも大切である。しかしどんなに素晴らしい性能が折り込まれていても、この性能が持続しなければ駄目だ。プロの写真家、カメラマンにとってはカメラの故障が一番困る。いざ撮影というときに機能が働かないのではどうしようもない。多少性能が劣っていても、故障を起こさないカメラのほうがいいカメラということになる。
カメラを落としたたとか、ぶっつけてしまって壊れたという故障は、これはつかう人間の不注意だからカメラの責任ではないが、そういうことではなく故障を起こすカメラが問題なのだ。故障の原因は機構的に無理があるもの、材質が悪いもの、製造技術が劣るものなどだ。(落下、衝突でも壊れない丈夫なカメラというのも、あるいはこれからのいいカメラの条件になるのかも知れないが、そこまでは望まない)
写真を撮りはじめて50年ちかくになるが、これまでつかってきたカメラのなかで一番故障の少なかったカメラはどれかと聞かれたら、これは文句なしにニコンFだということになる。故障が少ないなどということでなく、まったくと言うほどなかった。
これまでのカメラのなかではキャノン4sb、ライカ、ニコンSなどの35ミリカメラも故障は少なかったが、そうは言っても多少の故障がでるのはやむを得ないところがあった。レンジファインダー形式のカメラに共通して起きた故障はといえば、シャッター関係のトラブルだった。
現在の8000分の1、1万分の1秒という高速シャッターを自由に使えるカメラから考えると想像もつかないだろうが、どのカメラも1000分の1秒の高速シャッターがあやしかったし、500分の1秒で撮ってもシャッタームラが結構起きた。
それ以外の故障というと、たとえばS型のニコンではフラッシュ接点が弱くてなやまさられた。フラッシュバルブを使用していた時代はその故障に気がつかなかったが、ストロボをつかい始めると故障が目立つようになってきた。これはフラッシュバルブの発光器にくらべて、つかう回数が圧倒的に多くなったことによるかもしれない。言い方をかえればストロボを使わなければ欠点は見えなかったことになる。
私が使っていたニコンS型はS2とS3だが、どちらもストロボの接続不良をよく起こした。それが同じニコンでもF型になるとほとんどこの事故がなくなったのだから不思議だ。S3とFとはほとんど同じ時期に発売になっているのだが、根本的な設計や、生産ラインの違いもあったのだろう。あるいは使っていた材質に問題があったのかもしれない。
私の知人である電器メーカーの研究所に勤めていた男がいた。彼は携帯ラジオにはじまった移動型の音響製品などの振動試験をやっていた。経済成長期でポータブルラジオが人気商品になった時代である。持ち運びの小型ラジオの初期、一番困ったのはハンダ付けの接着部分がとれてしまうことだったそうだ。接着用ハンダの改良が行われてずいぶん性能のよいものが出来るようになっきた時代である。この知人に言わせるとカメラ業界は電気部分に質の良い振動に強いハンダを使っていなかったようだ。
知人の勤める電器メーカーはカメラの製造にも食指を動かしていて、ある時期その知人は国産カメラの振動テストをやったそうだ。彼と食事をする機会があってそのとき出た話だが、ある波長の振動でカメラをテストすると、それほど長時間でなくても面白いくらい止めているビスがゆるんでバラバラのなってしまう。カメラによっては全部のビスが抜けてしまうと言う。その振動は大型バスででこぼこ道をゴトゴト走らせるような波長の振動で、それが人間がカメラを持ち歩く時に起きる振動と関係あるかどうかはわからないのだが、これにはびっくりしてしまったそうだ。そんなことからカメラメーカーは製品の振動試験をやっていないのでないだろうか、と言うような話になった。何十年も前の話である。
私がカメラのフラッシュ接点の故障が多いという話をしたら、カメラのテストをしてみると振動の問題だけからすると目立つ故障はの一つはレンズの締めがゆるんでくるカメラが多い。
そのつぎには、電気部分がまったく駄目で弱いと言った。レンズがゆるむのはピントがおかしくなるので比較的早く気がつくのと、段階的に悪くなっていくので許せるところもあるが、電気部分は突然全くつながらなくなってしまうからそりゃー困るでしょうといった。その当時のカメラで電気的な部分と言えばフラッシュの回路しかないのだから、その知人の説にしたがえばこれが壊れるのは当たり前と言うことになる。
ニコンS型が振動試験をしていたかどうかは知らないが。故障して見てもらうと断線していましたと言う。2、3ヶ月するとまた駄目で本当にこの故障がよく起こった。いまになって考えてみるとストロボというのは結構、高圧の電流が流れるのでそのことに原因があったようにも思える。この故障がニコンFになって全く起こらなくなったのである。
このあたりが日本のカメラ工業のすごいところなのかも知れない。ニコンFはご存じのように昭和35年に発売された。日本カメラはそれまで多少の評判をとってはいたが、ドイツカメラを始め海外製品の物まねと言う印象が拭えなかった。しかし、あの時期を境にして世界を席巻していくことになる。一眼レフという新しい機構だけではこの日本カメラの快進撃は続かなかったと思う。カメラが故障を起こさなくなったのだ。これが日本のカメラが躍進した理由の一つだと思う。