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吉江雅祥
(元朝日新聞写真出版部長)

デジタルカメラ・カシオQV−10
 朝日新聞朝刊・オピニオンのページに『新三種の神器』という連載記事が出ていた。三種の神器はいささか古い表現のように思うのだが、電機業界で最近また使われはじめた旗印のようだ。

 昭和30年代、白黒テレビ、洗濯機、冷蔵庫が家庭の三種の神器ともてはやされた。三種の神器は日本の天皇のしるしとして伝えられてきた三つの宝物の意味である。高校を卒業したばかりの若者たちに聞いてみると三種の神器はあまり通用しないようだ。

 日本神話でアマテラスオオミカミが孫のニニギノミコトに、地上に降り立つにあたって三種の神器(これはアマテラスにとっていろいろの意味を持つ宝物であった)勾玉(ヤサカニノマガタマ)と鏡(ヤタノカガミ)そうして剣(クサナギノツルギ)を与えた。

 これは皇位のしるしとして歴代の天皇が受け継いだものであった。30年代一般家庭の三種の神器と言われたのは、これが無ければ一応の家庭とは言えないという意味あいと早く備えてまあまあの家庭生活をしたいという願望があった。何よりも戦前教育を受けた当時の所帯持ち世代にとっては、良き家庭の象徴であり必需品という印象が強かった。

 三種の神器・テレビ、洗濯機、冷蔵庫のつぎにカー、クーラー、カラーテレビが高度成長期の豊かさを目標に「3C」の時代がきた。そうして今、「新三種の神器」なのだそうだ。新三種は薄型テレビ、デジタルカメラ、DVD録画再生機だそうである。新三種の神器は消費者の購買意欲を高めたいメーカーや販売店の宣伝戦術なのだろう。

 この朝日の連載(3)にデジタルカメラが登場する。「はじめは、そろりと、だった。95年にカシオ計算機が発売した一般の利用者向けのデジタルカメラ「QV−10」の、最初の出荷数はわずか3千台」

 カシオを含めた各メーカーは80年代に電子カメラを業務用、一般用に発売したが見向きもされなかった。ところが「QV−10」は売れた。この成功を皮切りにカメラメーカー、電機メーカーがこぞって参入それ以降は「そろりと」どころではない。

 PCのの普及時期と重なって01年には国内出荷台数で銀塩フィルムカメラを追い越し、03年出荷台数は800万台を超えた。と書いてある。筆者は畑中徹さんだ。

 これを読んでいて、8年前のカシオのQV−10を思い出した。2年ほど前にも私が一番最初に使ったデジタルカメラということでカシオQV−10のことを紹介したことがある。この連載の73回だった。

 このカメラをつかうまで、デジタルカメラは使ったことがなかった。1988年ソール・オリンピックのとき朝日新聞がソニーと共同で電子カメラを開発していた。オリンピックが始まる1年くらい前にカメラが写真部に持ち込まれた。これが電子カメラの最初の体験だった。

 このカメラのテスト段階でソニーのスタッフとの会議に出たり。テストに立ち会ったりしていたから、いずれ電子カメラの時代が来るだろうという予感はあったが、あのときの感じと出来上がった写真の出来映えでは、20世紀中に実用化などとはとても考えられなかった。

 たしか申し訳程度に電子カメラを使いました。電子カメラの実用化に先鞭を付けたということで1枚か2枚の電子カメラ撮影写真が新聞紙面に現れた。あのカメラは大変に大きな物で、送信設備を含めると六畳間一杯くらいの広さを必要とした。

 92年のバルセロナ、96年のアトランタと10年たたないうちにデジタル時代がやってきたのだから驚かざるを得ない。新聞社写真部のデジタル化はアトランタオリンピック以降である。

 アトランタ・オリンピックではまだおそるおそるという感じで使い始めたのだが、結果が良かった。あれで新聞社写真部のデジタル化が一気に進んだ。

 デジタル写真は1989年からはじめた。はじめはデジタルカメラはなかった。写真画像は銀塩フィルムカメラで撮影したものを、スキャナーで取り込むことではじまった。当時はデジタル写真をやっていたもののほとんどがデジタルカメラに興味を持っていたがまだ使おう、買おうと言う段階ではなかった。

 カシオQV−10が発売になってやがて評判になるのだが、これはメモ用文房具のような役割で売れ出して、その評判がデジタル写真に興味を持つものに伝わって、それでは使ってみようかと言うような広まり方をしていったと思う。

 はじめてカシオQV−10を使ったのは、発売された翌年1996年の春だった。友人ものを借りて使った。25万画素だったから、とても気に入るというものではなかった。初期のカメラ付きケイタイの画像よりも悪かった。

 でも画像でメモを撮ると言うような役割が何となく気にいって、96年になって夏休みの間、真を撮るというよりは遊びに使ってみ見ようと考えて買った。QV−10は確か5万円くらいだった。PCへの接続キットをつけて6万円くらいと思う。

 当時デジタルカメラはカシオQV−10だけというわけではなくて、オリンパスもあったし、富士からも出ていた。ニコンからも縦型の不思議な感じデザインの10万円以上もするデジタルカメラが発売されていた。評判では小型双眼鏡のような形のコダック製デジタルカメラが良かった。

 買おうと思って比較した機種にはチノンのデジタルカメラがあって、これはMACにもWINNDOWSにもダイレクトPC入力が出来ると言われて大分食指が動かされた記憶がある。

 この原稿を書くために、しまいこんでいたはずのQV−10を探したのだが、どうしても見あたらない。使ってみたいと言った学生に貸したような気がするし、あるいは進呈してしまったのかも知れない。

 カシオQV−10は液晶画面が付いているのが特徴だった。小型デジタルカメラの型が不確定で、どういう方向に進むのか見当もつかなかった時期に、デジタルカメラには液晶画面という形を作り出したと思う。

 記録媒体は内蔵の2MBのフラッシュメモリーだった。撮った写真はビデオコードでテレビにつなぎ画像を見ることを宣伝していた。記録コマ数は96枚、フィルム3本分だったからメモ用には十分だった。

 画像の質が悪いことは承知していたから、銀塩カメラと比較しようなどとははじめから考えもしなかった。

 このカメラを買った翌年オリンパスの80万画素デジタルカメラが発売された。このカメラを買ってはじめて銀塩カメラと比較してみようという気がでてきた。

写真説明
カシオQV−10の実物がないので、QV−10の写真を探したが出てこない。やっと見つけたモノクロの写真だ。あまり鮮明でない。
(1)カシオQV−10 前面
(2)カシオQV−10の裏面、液晶画面が珍しかった。