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渡辺理恵子さんインタビュー



 11月26日から12月2日まで、銀座ニコンサロンで渡辺理恵子さんの写真展「猫の爪痕」が開催された。渡辺さんは、芝浦工大柏高校在学中の18歳。高校生によるニコンサロンでの個展開催は三好和義さん以来の快挙である。
 日常の中にごく自然に存在するトタンや空き缶のごく一部をマクロレンズで切り取り、赤く錆びた鉄板の上にそれを何枚か組み合わせることで、一つの作品に仕上げられている。独特の色調は新鮮でありながら暖かい美しさを持ち、見る者を彼女の世界へと引き込む。日常から色を切り取っていく眼とそれを独自の世界に作り上げていく想像力は、すでに高校生といった枠でくくることの出来ないものであり、新たな作家を強く感じた。
 

編集部・新藤祐一(以下新藤):まず、写真を始められたきっかけを教えて下さい。
渡辺理恵子さん(以下渡辺):高校に入学したときに写真部に入ったのがきっかけです。自分を表現したいという想いが常にあって、たまたま月刊カメラマンという雑誌に投稿して載るようになり、それが励みになってここまでやってきたという感じです。でも、賞を目指しているわけではなくて、表現方法の一つと考えています。私の写真はあまり写真という感じではないのですが、写真に対してこだわりはなく、何か表現しようと思ったら、たまたま写真になったという感じです。
新藤:実際に撮られる写真は、今回の個展に出されている「猫の爪痕」の様な写真がほとんどなのですか?
渡辺:ああいったものもありますが、ほとんどは自分で物を作って撮影したものです。例えば歯ブラシを曲げて羽を付け、土から蘇ってくる感じを表現した「蘇生」というタイトルの写真が、たまたま今月号(1月号)の月刊カメラマンに掲載されています。
新藤:では、撮るというより、作り上げていくといった感じの写真が多いわけですね。写真部に入られているということですが、普通の写真部の写真とは違いますよね。
渡辺:そうですね。でも私にとっては、あたりまえの写真なんです。意外性をねらったり何か違うことをやりたくてそういう写真を撮っているわけではなくて、私にとっては写真というのはこういうものなんです。皆さんには個性が強いねとか違った写真だねと言われますが、私は自然に撮りたいものを撮っているだけなんです。

新藤:同じく高校生で活躍していた写真家というとまずヒロミックスが思い浮かぶのですが、ヒロミックスをどう思いますか。
渡辺:ヒロミックスは一人で十分だなと思います。ヒロミックスは上手いと思うのですが、真似をしている人が多すぎますよね。
新藤:個展以降はどうされますか。
渡辺:写真かどうかは分かりませんが、何かものは作って行くつもりです。自分のやりたいことがイメージできていますので、それを一つ一つ作っていきたいですね。あと、受験勉強をそろそろしなければならないので。
新藤:高校2年生という事ですが、進路はどう考えていますか。
渡辺:とりあえず美大を目指していますが、こだわってはいません。やりたいことが出来る場所さえあればどこでもいいですね。
新藤:そういう意味では美大はいいかもしれませんね。
渡辺:そうですね。機材はあるし時間はあるし、今の所一番いい環境かなと思っています。でも、個性が押しつぶされると言う人もいますし。
新藤:僕も美術系の大学にいますが、自分を強くもてば大丈夫だと思いますよ。ただ、美術系の大学だと実技が試験にありますよね。
渡辺:デッサン力を身につけたいと思っているので、ちょうどいいなと思っています(笑)あと、立体的な物も作ってみたいですし、インスタレーションにも興味があります。あと観客の人を含んで広がっていくようなものまで、いろんな事をやってみたいですね。
新藤:写真はお金がかかりますが、高校生にはきつくないですか?
渡辺:恥ずかしいのですが、今回の個展にかかる費用は親からお金を借りています。もちろん返すつもりですけれど。
新藤:普段の撮影費用は?
渡辺:月刊カメラマンからの賞金から出ています(笑)それだけでは足りないので、お小遣いや貯金でやりくりしています。月に少なくて2万円くらいかかりますね。
新藤:高校生って、暇なようで忙しいじゃないですか。毎日3時くらいまで授業がありますし。そのなかで撮影していくというのは大変ですよね。
渡辺:そうですね。日曜日や夏休みに撮影したり、放課後に学校周辺を撮ったりしています。

新藤:今回の個展についてお伺いしたいのですが、どういったきっかけで、こういう写真を撮り始められたんですか?
渡辺:絵を描くときの、配色や模様の参考に撮り始めたのがきっかけです。資料集めですね。
新藤:被写体は全て普通にあるものをそのまま撮っているだけですか?
渡辺:そうです。工事現場や公園などで撮影しました。
新藤:色はストレートに、特に補正をかけたりはしていないんですね。
渡辺:そうです。
新藤:あれだけの量を撮るということは、とても大変ですよね。
渡辺:風景や人物と違って、そこにいつもあるというわけではなくて、見つけなければ撮れないものなので大変でした。
新藤:普段の目とは違う視点でなければ見つけられないですよね。
渡辺:野良猫になった気分になって、高いところから低いところまで見ていかないとだめですね。でも、ありそうなところは分かるようになりました。自然の中でこういったものを見つけていくのは本当に楽しいですよ。人間の手から自立した色だと私は言っているのですが、意図せずに風や熱などによって変化していって作られる独特の色があって本当に楽しいです。
新藤:それを撮っていくという作業は、簡単なようでとても大変な作業だと思います。同じ事を考えた人は多いと思うのですが、実際に見出せる眼を持つ人はなかなかいません。僕はその見つけていく眼がすごいなと思いました。あの写真は、全てマクロを使ったものですよね。
渡辺:そうです。ほとんどフィルムの大きさと同じ大きさくらい、等倍くらいで撮影したものを拡大しています。
新藤:そこがすごいですよね。おそらく普通に引いてみているとありふれたものだと思うんですよ。その中から色を見つけだしていくのは、本当に難しいことだと思います。
渡辺:ファインダーを覗いて始めてわかる感動ですね。それを伸ばしていくと全然違った世界が広がります。そのギャップがすごく面白いですよね。
新藤:本当にすごい眼を持っているな思いました。
渡辺:いや、とんでもないですよ。回りはすごいすごいと言っているけれど、私自身は満足してウキウキしたりしているわけではなくて、かえって醒めた眼で見ているんです。
新藤:いや、いい写真を撮っているときはきっと醒めているんじゃないかなと思いますよ。
渡辺:実は、内心喜んでいるんですけどね(笑)
新藤:あと、展示で気になったのが鉄板です。錆びた鉄板を額の代わりに使っていて、それがとても写真に合っていて素晴らしいなと思ったのですが、何故鉄板を使われたのですか?
渡辺:前にも言いましたが、あの写真は人間の手から放れたところにある色を撮ったものですから、私の手からも自立させたかったんです。あの錆は日々成長していますから、私が手を加えなくても変化していきます。自然の流れのようなものを、会場に持ってきたかったんです。

新藤:最近の高校写真部は女の子ばっかりで、ヒロミックス系の写真が多いみたいですね。
渡辺:そうですね。でも、私は写真ブームとかそういうものは意識していません。女の子だからと後から言われましたけれど、意外でした。私はカメラマンって、男女半々くらいだと思っていたんですよ。けれど実際には女だからと注目されて驚きました。高校生だから女の子だからと注目されるのは踊らされているようであまりうれしくありません。10年後の自分を見て、評価してもらいたいなと思います。
新藤:そうですね。そうやって高校生や女の子だとくくる必要はまったくないと思います。今回こうやって高校生特集で取材させていただいていますが、高校生としてではなく新しい作家として紹介していきたいなと強く感じました。渡辺さんの新しい作品を見てみたいなと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。