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写真集自費出版ノススメ

 写真を撮る者ならば、一度は写真集を作ってみたいもの。しかし、印刷や費用の事など分からないことが多く、躊躇している人がほとんどではないだろうか。そこで、実際に写真集を出された方や出版を行っている会社にお話をお伺いし、自費出版写真集の作り方から苦労までを取材した。(SIN)

ESSENCE
 ESSENCEは、東北大学写真部の武田卓也さんを中心に3人のメンバーによって作られた写真集。作品はポートレイトを中心とし、44ページ全てモノクロでまとめられている。印刷自体はあまり良いものと言えないが、オリジナルプリントさえ見なければ納得がいく程度の品質だ。
 武田さんがESSENCEを作ろうと思われたのは昨年の8月頃。所属している写真部でかつて写真集を作っていたことがあり、大体の費用が分かっていたことが後を押す形となったという。しかし一人ではさすがに荷が重い。そこで友人を募り、共同で出版することになった。
 その際の企画段階では、A4・52ページ・500部・15万円を考えられていたが、印刷所の出した見積もり金額は46万円。しかしそれに動じることなく、いかに予算にすりよせていくかに腐心し、最終的にはA4・44ページ・400部・21万円で決着した。印刷といっても、その価格は品質によって大きく異なる。そのため、まずいくらまで出せるのかという予算をはっきりさせ、またどこまで妥協できるのか出来ないのかはっきりさせた上で交渉に臨まないと混乱してしまう。武田さんは自費出版の本や印刷の本を読み漁り、編集・レイアウトの指示までを自分で行うことによって予算に近い形にまで費用を押さえることが出来たという。
 その後、各自から原稿を集め編集作業を行い、印刷所に入稿したのが12月。そして翌年2月に刷り上がり、写真集として完成した。完成した後にも、この写真集をいかにして多くの読者に読んでもらうかという問題が存在する。通常の出版物ならば、そこから取次を通して一般の書店に並べられる。しかし、普通の個人が制作した写真集は取次に通してもらえないため、書店などで販売するためには、一軒一軒まわって交渉しなければならない。武田さんの場合は、仙台付近の大学生協、書店、ラボなどを歩いてまわり置いて貰い、計40部程度を販売することに成功した。また知り合いなどに100部程度を直接販売。その他にも美術館・図書館等に寄贈し、多くの人に見て貰えるように考えているという。
 こうして出来上がった写真集は、武田さんにとって必ずしも満足できるものではなかったという。注文した印刷所が写真集の印刷になれていなかったため、考えていたものよりも印刷の質が落ちてしまったり、指示通りには行かない部分があったりしたことがその原因だ。しかし、やはり写真集を作り上げたという満足感はたまらないものがあったそうだ。
 武田さんは、現在次作「ESSENCE2」の制作を進めている。東北の大学写真部などに所属している若い写真家を37人集め、272ページ・2300部というスケールの大きなものになるという。12月に完成予定のその写真集に期待したい。

mole
 新宿・四谷にあるMoleは、ギャラリーを併設した写真書専門書店であり、また写真集の版元でもある。先に木村伊兵衛賞を受賞した豊原康久さんや瀬戸正人さんもMoleから写真集を出され、版元としても、写真界にその名を広く知られている。
 そのMoleも自費出版を行っている。しかし、一般の自費出版とは違い、持ち込み等による受付は一切行わず、代表の津田さんとのつながりの中で作られていく。また、一般の出版物と同じようにISBNコードをつけられ、書店へも取次を通して流通する事が出来る。見た目はまったく自費出版だとは分からない。
 その中の一つ、「Street」は豊原康久さんの写真集。木村伊兵衛賞を受賞した作品だ。84ページにまとめられたモノクロの作品は、黒1色ではなく3色を使って刷る「トリプルトーン」という方法で印刷され、その階調は目を見張るものがある。この写真集の場合、1000部刷るのにおよそ500万円かかっている。やはり印刷や装丁を良いものにしようとすれば、金額は自ずと上がっていく。
 逆に安く上がった例として尾仲浩二さんの「遠い街」を挙げよう。全体的にコントラストの強いイメージで撮影された160ページ。印刷は二色を使って刷られる「ダブルトーン」で刷られ、紙も薄い。しかし、そういった感じが尾仲さんのどこか退廃的な写真と良く合っている。やはり1000部でおよそ100万円かかっている。
 この差は、やはり印刷や紙の質、そして装丁などによって決定される。Moleの場合は予算などではなく、その人の写真にあった形で表現しようと印刷などを考え、結果としてこういう形で差が生まれるという。
 こうして作られた写真集は、Moleでも販売される他、取次を通して一般の書店でも販売される。その際、1000部がさばけるには、大体5年の歳月が要される。写真ブームが叫ばれながらも、まだまだ写真に対する理解が浅い日本の現状がそこにあると言えるだろう。

手軽に、安く
 全くの手作りと言う方法もある。
 例えばコピーを使った写真集。かつて荒木経惟さんもゼロックス写真帳という手作り写真集を出していた。最近ではコピー機の性能も格段に良くなり、そこそこに階調も表現できるようになっている。実際にコピーで作られた写真集を見ると、驚くほどだ。
 また、オリジナルプリントを自分で製本するという方法もある。製本の方法も色々あるが、最近では二万円ほどで簡易製本機が購入できるので、手軽に通常の印刷に近い製本が出来るだろう。あまり部数は作れないが、オリジナルプリントならではの味が生まれる事は間違いない。
 昔ながらのCHペーパーを使った方法もある。CHペーパーとは超薄手の印画紙のことで、バライダ紙と同じ条件で処理できる。その薄さは普通の紙程度で、ある程度ページ数を増やしても、厚くなることはない。かつて手作り写真集といったら定番ともいわれた方法だ。
 既製の写真集という枠にとらわれず、是非様々な方法で、写真集を作って欲しい。