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公園にて

風が、わたしの袖を揺らしては過ぎる
わたしの唇が すこしかわいている
遊歩道を歩く ひとびと
枝がさらさらと揺れている
雲がゆっくりと流れていく
わたしのからだが ほてっている
道行くひとびとが 三々五々
わたしにいちべつをなげかけていく
大きなりっぱな花の枝が
重さで地面にまで垂れている
その前で写真を撮りあいっこする
年配の女性たち
どの人も笑顔で
しあわせそうだ
カラスたちが鳴きながら過ぎる
一心に花びらにレンズを向けている
中年の男性
わたしが近くを通っても
微動だにしない
わたしの歩みはおそい
砂利をふむ音が心地いい
ときおり、肌に冷たい風が過ぎる
向こう側には、すずかけの木が並んでいる
葉もない、あられもない姿をさらしている
もっと向こうにみえるのは
ビルの林
雲が少しずつ 厚くなってくる
ひょっとしたら、もうすぐ
雨が 降るのかも しれない
着ているものを濡らさないように
もう帰らなければ ならないのかも
しれない
でも、今年の春は まずまずだった なんて
ちょっと 思い直しても みる


電車のなかで

足を痛めて、ひきずりながら歩く日々が
続いている
朝の駅へと向かう道
みんな、なんて速く 歩いていくのだろう
プラットホームに電車がきてる
階段をかけのぼっていく 人々
わたしは手すりにつかまりながら
いつもはただ、よけて通るだけの
マイペース、のんびりペースの 老人のあとから
おそるおそる のぼっていく
電車のなかでは 座りたい、とおもう
口をあけて 眠っている男
若い女が 車両の揺れに呼応して
左に右に揺れている
マンガ本にくぎづけの学生
足を広げて、腕組みをして
わたしのほうを ジロリとにらむ
男もいる
わたしは、ついカッとなって
敵意を込めて にらみ返してやる
あわてて眼線をそらす 男
足が痛む
わたしのとなりでは、初老の女性が
吊り革につかまりながら、分厚い文庫本を
一心に読んでいる
わたしの前の席があく
どうしようか、と ちょっと迷って
となりの女性のほうを見る
女性は何もいわずに 席につく
なんだか、わたしは
むしょうに むしゃくしゃして
女性をにらみつけてやる
女性は、どこ吹く風よとばかりに
あいもかわらず 本を読んでいる


カラスたち

小雨の日、曇った日
どこからともなく カラスたちは
このまちのあたりいちめんにやってきて
高らかに声を立てる
電柱に、マンションの屋上に
ゴミの集積場所に
ひとびとのごくごく近くまで彼らたちは
臆することなく遠慮することなく
やってくる
ひとびとが足早で歩いていく
あきらかに、彼らを迂回しながら
なにかの災いが 自分に及ばぬように
でも、こわがってなんかいないぞと
平静さを保ちながら微妙な距離を保ちながら
歩いていく
−−警察はなにをやっているのか
役所はなにをやっているのか
誰も、何もいわないのか
なんとかしようという気はないのか
カーカーうるさくてしょうがない
バサバサ目ざわりでしょうがない
いまのところは放っておいてやる
好き勝手にやらせておいてやる
でも、万一 なにかの害を及ぼすようなときは
そのときは、ぜったいにぜったいに容赦しない−−
熱い暗い情念で身を固める
そんな、人間たちの思惑なんか気にもとめずに
つまりは手を出さないのではなく出せないのだから
もっとよりいっそう積極的に大胆に
あんな、民家の門柱の上にまでちゃっかりとまり
道ばたにころがった肉片をつつき
灰色の雲にひときわ映える黒い姿で
駅へと至る道すがら
至るところに姿を現わし
道ゆくひとびとを見下ろしながら
高らかに 声を立てている


MODEL: Wang Ying
Stylist & Hair Make up: Noriko Sasaki