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若い女の子たちが……

朝のうち ちらついていた雪もやんで
まちなかに 人の足が戻ってきた
冷たい北風が頬をうつ
こぎれいななりをした 若い女の子たちが
身をちぢめながら 歩いていく
向こうから歩いてくる どの娘もどの娘も
眉毛を細く長く書いている
通りすぎていく どの娘もどの娘も
話していることといえば、友だちのこととか
たまごっちのこととか、実に実に
自分たちの身近な話題のことばかり

二人以上のグループは、やたら楽しそうに
笑顔をみせながら歩いている
一人で歩いている娘は 目線を下げて
何も見ようとしないかのように
誰にも見られまいとするかのように
眉間に皺さえよせて 歩いてくる
雑踏の中で自分を 懸命に守ろうとしているかのように
厳しい表情をして歩いてくる
自分を守りながら、自分以外の何かを求めて
まちなかを 歩いてくる


いつかは別れるときが……

いつかは別れるときがくる
一番親しい人とでさえ
人生にさえ
別れるときはくる
いつ、とは わからない
いまのところ
ただ、別れるということは
それだけは 確かのようだ
そのときをおもうと、つらい
やたらと切なくなってくる

でも、それは いま わたしが
それなりに幸せだと思えるような
毎日を送っているからではないか
10代から20代にかけて わたしの心は
ただただ苦しかった
やたら もがこうと試みて
どう、もがいてよいのかさえ
わからないでいた
だから、あの日に帰りたい、とは
すくなくとも おもわない

楽しいことなんてもともとなかった、とおもえば
別れも、すこしはつらくなくなるだろう――
そうやって、わたしは、わたしが出会うだろう
こころの痛みを、あらかじめ予想しながら
それに慣れようとする
ほんとうの別れのときに 悲しくならないように
淋しさで 立ち上がれなくならないように
人を、ほんとうに愛することもなく
わたしは 生きのびようと してきた
人に、ものごとに置いていかれないように
いつも、わたしが先に旅立つことを考えた
さよならをいわれるつらさを耐えるくらいなら
いっそ、自分から さよならをいいたかった

でも、いまのわたしは ずいぶん変わった……

写真が残り、言葉が残る
たまに、思い出したように見返してみると
その大部分は、もう いまのわたしには
ピンとこないものばかりだ
ただ、そのうちのいくつかは いまだに
みずみずしい そのときの空気をぬくもりを
伝えてくれる
そうやって、未来に懐かしく思い起こせる何かを
いま、わたしは 懸命になって
残そうとしているのだろうか


春がくる

一週間まえは凍りつくような北風
きょうはコートもいらないような南風
日一日一日
春が、近づいてきているらしい
梅の花は、もうすぐ終わりだそうだ
テレビでいっていた
桜は今年、去年より早く咲きそうだ
テレビでいっていた
部屋の中で長らく花をつけていた
シクラメンの枝も垂れてきた
日もずいぶん長くなってきた
もっとあたたかくなってきたら
海辺にいってみたい
日なが一日 ぼんやりと
湾岸を大きくまたいでかかる 橋の向こうの
海の さらに向こう側を
ぼんやりと、ただ眺めるでもなく
いろいろなことを 心に思い浮べて
すごしていよう
なんとなく毎週みている テレビドラマでは
夢を追うことの尊さ素晴らしさを 主人公が
一生懸命、熱く、語っていた
わたしの、幼いころの夢といえば
世界中を旅して回ること――
そんな漠然としたものだったように おもう
なにをしたい、というわけでもなく
ただ、毎日が 楽しければよかった
忙しさのなかに埋もれ
「ほんとに時のたつのは早い」
なんて人に会うごとにいい
役人や政治家のだらしなさに呆れ
でも、特に自分でどうこうする気もなく
それより深刻な花粉症を思い煩い
とにもかくにも
もうすぐ春がくることが
やっぱり、うれしい


MODEL: Wang Ying
Stylist & Hair Make up: Noriko Sasaki