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今年の夏も

幼いころから
わたしは独りだったようにおもう
父も母もやさしかったが
でも、わたしが独りであることに
変わりはなかった、と一一

それは、いま生まれた場所からも
時間からも
遠く隔たってしまったからこそ
感じることなのかもしれない
あわただしく わたしの前を
日々が過ぎていく
今年の夏も、もう終わりだな
海に行っても 泳いだり、肌を焼いたり
友だちとはしゃいだり
もう、しなくなって一一

わたしは、ちよっと疲れているのか
オトナの社会が なんだかけむたいものに
思えていた あのころ
いろいろなひとと あてもなく
時をやりすごすだけの 毎日
もっと、自分の生活を充実させたい、と
思いはじめたころから
日々が次から次へと わたしの前を通りすぎ
つけていた日記も いつのまにか
つけなくなっていた
わたしは、まるで 透明なガラスにでもなったみたいに
楽しかったことも、悲しかったことも
腹が立ったことも、悔しかったことも
それがいつ、どんなふうにそうなったのか
もう、漠然としか 思い出せない

このまちで暮らすこととは
そんな慌ただしさに負けないように
時間に、ひとに おいていかれないように
自分で自分を追い立てること一一(?)
そう思い込んでいる 自分がいる

そして、また わたしは
何かを追いかけ 何かに追われるように

なにものかに
なって ゆくの だろうか………(?)


心のスケツチ

男に甘えることばかり得意な女がいる
それを異常な嫌悪感で嫌う女がいる
わたしにはどちらも関係ないし
興味もない
好きにすればいいのだ

すると、「なによ、その見下したような
ひとをバカにしたような態度!」一一とくる
始末に負えない

こんな連中を「バカ」と呼ぶのは簡単だけど
わたしにだって、自分自身ゆるせない「バカ」な部分が
たくさん ある
いちいち数え挙げればキリがないほど
「バカ」なことを
わたしはやってきた

むかしはそれが、たまらなくイヤだった
そんな自分が、とてもイヤだった
「バカ」な人生を生きるくらいなら
いっそ、死んだほうがマシだなんて
いきまいていた 自分がいた
ところが、いまでは そんな「バカ」な自分が
なんだかいとおしくさえおもえるのだから……

人生がそもそも「バカ」であることに
わたしは気づいたのか、それとも
それでも生きているほうがましなんだ、と
「生」にこだわる年齢になったのか……
そればっかりは わからない
おそらくは、その両方なのかもしれない
だとしたら、なんとなくイヤだな、なんて
堂々めぐりに おもうばかりで

あなたたちは、わたしが「冷たい」という
「心の中であざ笑っているんでしょ」という
その、どちらでもない
わたしは、ただ あきれているだけ
ちょっとは、うらやましくさえある あなたたちが
そんなに自分のことだけに なんの疑間もなく
ひたむきに
一生懸命でいられることが


女の子が、とつぜん……

女の子が、とつぜん うずくまる
みんな、ちょっとおどろいたりする
でも、だれも彼女に
手を差しのべたりはしない

夏の、満員電車
息をするのも 苦しいくらいの
きゅうくつさ
こんなにも何人もの何体ものからだが
ひしめいているというのに
それらの一つ一つの意識と意識の距離の
なんと遠いことか
こんなにもからだを寄せ合って
体温を共有し合っているというのに
一つ一つの意識は なんて冷たいのだろう

しゃがんだまま動かない女の子
なにか、いやなものでも見てしまったかのように
しらじらしく週刊誌よんだり
目をつぶったりしている おじさんもおばさんも
若いひとも年取ったひとも


MODEL: Wang Ying
Stylist: Zhao Qing
Hair & Make up: Noriko Sasaki