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伊達なつめ

 これは歌舞伎座の地下鉄車内刷り用ポスターです。歌舞伎座の最寄り駅になる東銀座に停車する営団日比谷線と、都営三田線の2路線の車内に貼り出されています。
 毎月、翌月公演の演目からひとつを選び、その作品のストーリーや内容の一部、あるいは名せりふなどを付して、雰囲気を伝えようとしているものなのですが、果たしてどの程度わかってもらえるやら・・・。このコピーの制作者としてははなはだ不安で自信ありません。そこで、この場で蛇足ながら色々補足させていただき、胸のつかえをいくらか軽減できればと思う次第です。




第2回

盲長屋梅加賀鳶



按摩といやあ、
人さまを癒す生業だというのに
この道玄ときたら
ゆすりカタリは朝飯前だし
人殺しだって屁でもない
弱者を虐げ
善人に付け込む
とんでもないワル入道だ
このまま野放しにして
なるものか
観念しろ、悪党!



 歌舞伎に出てくる坊主頭には、悪人が多い。まず僧侶。これはほとんど例外なくワルか、よくても、ロクでもない生臭坊主のたぐいとして扱われる。江戸時代は、徳川幕府によってキリスト教が禁止され、そのぶん仏教が保護されたため、仏教界は堕落し放題だった。その風潮が、そのまま芝居の登場人物にも反映されているのだろう。欲が深くて抜け目なく、そのうえ女好きの小悪党というのが、宗教家の定番だ。
 按摩というのは、それに比べれば、多くは善良な小市民。並外れた悪人は、この作品の主人公、道玄くらいかもしれない。
 本郷菊坂の盲長屋に住む目あきの按摩道玄(中村富十郎)は、善良なマッサージ師を装いながら、実は根っからの強欲人間。お茶の水で、金目当てに百姓を襲い、殺してしまっても平然としている。そのうえ家に帰れば、心優しい女房にはつらく当たり続けるし、その女房の姪が奉公先から多額の金をもらったと聞けば、ゆすりの種になるに違いないと、無理やり話をでっち上げて押し掛ける。人を信じることと無縁で、お金以外には価値を見い出せないタイプの人間なのだ。
 しかし、道玄はゆすりに出かけた店で、よりによってお茶の水の人殺しの目撃者に出くわしてしまう。やりたい放題の小悪党も、運の尽きなのであった。
 どこか憎めない江戸の小悪党を描かせたら、右に出る者なしの河竹黙阿弥、晩年の人気作。この道玄の話と併行して、加賀鳶という、火消しの男たちの喧嘩に賭ける威勢のいい話も展開する。江戸っ子の小気味よさが横溢した、気持ちのいい芝居だ。

9月1日(日)〜25日(水)/歌舞伎座/昼の部11:00『信康』『棒しばり』『御所五郎蔵』、夜の部16:00『摂州合邦辻』『二人道成寺』『盲長屋梅加賀鳶』/16000円〜2500円/出演 富十郎、團十郎、芝翫、時蔵、福助、羽左衛門ほか/問い合わせ 歌舞伎座(03-3541-3131)