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伊達なつめ

 これは歌舞伎座の地下鉄車内刷り用ポスターです。歌舞伎座の最寄り駅になる東銀座に停車する営団日比谷線と、都営三田線の2路線の車内に貼り出されています。
 毎月、翌月公演の演目からひとつを選び、その作品のストーリーや内容の一部、あるいは名せりふなどを付して、雰囲気を伝えようとしているものなのですが、果たしてどの程度わかってもらえるやら・・・。このコピーの制作者としてははなはだ不安で自信ありません。そこで、この場で蛇足ながら色々補足させていただき、胸のつかえをいくらか軽減できればと思う次第です。



第1回
狐狸狐狸ばなし


ねっちねちの、じーとじと
色魔の夫に耐えかねて
毒殺したと思ったら・・・
「あては一生、あんたから離れへんでぇ」
殺しても、殺しても
夫はケロッと帰って来る
「今夜もひと晩中、あんたにぎゅうとからみついて寝るのや」


戦慄と爆笑の幽霊コメディ
こんな怪談あっていいのか

狐狸狐狸ばなし



 タイトルからして何やらおかしそうだけれど、これは正真正銘、純日本産の上質コメディーだ。主な登場人物は、「ねっちねっちのじーとじと」のオカマ系でありながら、女房のからだをむさぼることだけが生きがいみたいな、元女方の手ぬぐい屋伊之助(勘九郎)。そんな夫を毛嫌いし、今は近所の寺のなまぐさ坊主重善(八十助)との不倫に夢中の、威勢のいい女房おきわ(福助)。そしてこの手ぬぐい屋夫婦の使用人で、ちょっと頭が足りなさそうな又市(染五郎)。
 おきわは、伊之助への嫌悪とモテる重善への嫉妬から、ついに伊之助を毒殺。それを聞いた重善は度肝を抜かれるが、もはや後には引けず、ふたりして葬式を済ませると、早速夫婦になろうとする。ところが葬式の翌日、殺したはずの伊之助が、ひょっこり姿を現すではないか。果たして生きているのか、幽霊なのか?聞くに聞けないおきわと重善は、恐怖におののきながらも、伊之助を闇討ちしてダメ押しの撲殺を断行。が、またもや翌日になると、ひょこひょこと伊之助は現われる。どうやら又市が、この怪現象の鍵を握っているらしいのだが・・・。
 作者は北條秀司。歌舞伎、新派、新国劇などに数々の名作戯曲を残し、業界では「天皇」の名をほしいままにしていた劇壇のドンだ。今年5月に90才の大往生を遂げたが、これは1963年、彼が56歳の年に書いた作品。なんと中村勘三郎、森繁久弥、山田五十鈴、三木のり平というビッグな4人の個性派が、がっぷり四つに組める世話物(庶民を描いた肩の凝らないタイプの芝居)を書くようにとの菊田一夫の要請で、執筆した戯曲だという。いわれてみれば、勘三郎の重善、森繁の伊之助、山田五十鈴のおきわ、三木のり平の又市は、まさに適材適所。しかも本当に抱腹絶倒の、秀逸なコメディーに仕上がっているのだから、「天皇」と呼ばれてしまうだけのことはあるなと、妙に納得してしまう。
 今回のキャストも、コメディー・センス抜群の勘九郎を始め、若々しくも充実した顔ぶれ。真夏の暑気払いには打ってつけの「怪談」だ。

8月3日(土)−24日(土)
歌舞伎座第1部11:00「車引き」「浮 鴎」「双蝶々曲輪日記−引窓−」、第2部14:45「狐狸狐狸ばなし」「道行旅路の嫁入」、第3部17:45「怪談 牡丹燈籠」
11000円から1500円
問い合わせ 歌舞伎座(03-3541-3131)