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SASAKI Takanori

釜石橋上市場

 日本唯一、最初で最後の橋の上にあるマーケット、それが岩手県釜石市の橋上市場だった。2003年1月5日、45年の歴史に幕を降ろし、いまでは完全にその姿も消している・・・。
 橋上市場は甲子川に架かる大渡橋に並行する形で1958年に完成。全長110m、全幅13mの場内には鮮魚、野菜からお土産品、日用雑貨、食堂など約50店舗が営業をしていた。ここは釜石の戦後復興の象徴であり、市民の台所として、また観光名所として栄えた。
 始まりは戦後、甲子川沿いの市道に集まった露天朝市。最盛期には300店を超えた。そこでは交通混雑や衛生上の問題が生じたため、河川法の特例許可を受けて河川上に市場を建設したのだ。しかし「営利目的の河川占有は認めない」とする65年の河川法改正により、橋上市場は違法占拠のテッレルを貼られた。岩手県は老朽化した大渡橋の架け替えに絡み、移転・撤去を迫った。この問題は市民の関心も高く、存続を求める署名は釜石市人口の80%を超えた。組合はそれを持って陳情したが結果は変わらなかった。
 河川法の特例措置で建設が許可された橋上市場は、同じ法律によって撤去を迫られる形となった。組合が正式に移転・撤去を決定したのは1996年に入ってからだ。その後は移転先や補償問題が難航し、完全決着したときは2002年になっていた。
 「鉄と魚のまち」で知られる釜石。しかし鉄は冷え、魚は減り、橋上市場は消えた。あとに残るのは橋上市場建設を後押しした市民の情熱と存続を求め続けた力、その精神だ。釜石に内在するその熱き精神が、釜石再生への原動力となる。釜石と盛衰を共にしてきた橋上市場は、その物理的な建物は消えたが、それを支えた精神は消えることはない。

※ここに掲載された作品は、個展「消えゆく光景・釜石橋上市場」およびサンデー毎日(2003.3/2号)に掲載した中から抜粋されたものです。