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Special

NAKASHIMA Hiromi

 私はこの家の「窓」から見える景色が好きです。
はじめは身体を治すためにと行き始めた場所だったのですが、ここでの生活は何もかもが驚きの連続で、今までの価値観が崩れてしまう程、カルチャーショックをうけた、そんな場所でした。 居候先の家主から「虫の世界に人間が住まわせてもらっているんだから、虫を殺しちゃいけないよ。」と冗談まじりに言われたとおり、本当に緑に囲まれ、朝は鳥の鳴き声で目を覚まし、家の中では蝶が飛び回るような、そんな場所だったのです。

  夏の夜、裏山に虫の鳴き声を聴きに行ったり、近くの湖に映る満月を見に行ったり、冬には二日かけて作ったエスキモーの家のようなイグルーで寝たり、子供の時にやりたかったような遊びもたくさんしました。

 そんなふうに遊び、そして生活しながら、この一年近く撮り溜めてきた写真の中から、本当に悩みつつも今回のこの展示にたどり着いたのは、私が短いながらも自然の中に身を置く生活の中で体感したもの、風や空気感、言葉にできない感覚が、「雪」によって一番ストレートに表わせるのではないか、と思ったからです。

  私にとって「雪」は、毎日1時間の雪かきをしなければならない厄介なものでもあったのですが、この窓から見える刻々と変わっていく雪の景色は、全く見飽きることもなく、とても幻想的なものでした。そして、こういうものを感じられることができるようになったことを素直に喜べるようになりました。

  この1年近くで見えてきたもの、そしてこれから通う中で見えて来るであろうもの、それは私の中でとても期待しているものでもあるのです。自分のチャンネルをその地に合わせさえすれば、多分もっと色々なものが見えてくる、と思うのです。

  私の現在の生活基盤は東京ですが、どこにいる私も「私」です。東京の生活からこの地へ続くその延長上に見えてくるもの、そして、私が感じた風や空気感を「個展」という一つの空間に表現したいと思っています。


この作品は、第17回ひとつぼ展にて、グランプリを受賞された作品です。(編集部)