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NAKANO Masaki

白夜の国のロマたち

　現在、北欧諸国には、15,000～20,000人のロマ（ジプシーとは蔑称）がいると推定される。その中で彼らの人口が最も多いのがフィンランドで、国内におよそ6,000人が暮らしている。
　インド起源といわれる彼らの先祖が、流浪の果てにスウェーデンを経てフィンランドに到着したのは、15世紀のことである。以来、北欧のもつ特異な気候風土の中で、他の国に住むロマとは異なった独自の伝統的な民族文化を培ってきた。特に、14歳以上の女性が身につける華やかな伝統衣装は、フィンランドのロマ特有のものである。
　一方、彼らのほとんどがフィンランド語を母国語として用いており、ロマ民族の固有言語である「ロマ語」が話されるケースはごく限られてきている。また、過去には差別を受けたフィンランドのロマたちも、現在ではその社会的権利や義務について他の国民と同等に扱われている。そして、長い間の慣習であった移動生活も都市を中心とした定住生活に移り変わってきている。
　ところでロマには、「普通の意味での宗教、つまり教義や教会の組織といった意味の宗教はない」といわれる。しかし、ヨーロッパに来て、キリスト教に対して何らかのつながりをもつことが有利だと気づいたからであろうか、実際彼らの生活にはキリスト教が深く根付いている。
　フィンランド国民の約90％が他の北欧諸国同様ルーテル教会に属しているが、ロマたちもその例外ではない。彼らの多くは会員数では国内で２番目に大きな団体であるペンテコステ派に属している。この宗派の特徴は、教会に依存しないこと、そして、礼拝に音楽の要素を導入していることなどであり、これらのことがロマのもつ民族性にうまく調和し、結果的に彼らの支持を集めているようだ。
　彼らは毎年夏になると、テント・ミーティングと呼ばれる野外礼拝を行う。公園や空き地に張られた大きな天幕の中で、演奏を交えた賑やかな礼拝が毎夜10日間ほど続けられる。ロマ特有の張りのある声と、叙情的なギターの旋律が作り出す音のうねりは、信仰を越え、聞く者の個々の魂を揺さぶる。演奏と歓喜の声は夜更けまで響くが、それでも外は真っ青な空が広がっている。こうして白夜の夜は日没を待たずして更けていく。