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Special

KOMIYAMA Michitaka

ラオス メコン劇場

 ラオスはなんにもない国だ。強いていえば仏教とメコン河以外、なにもない。物はないし、取り立てて見るべきものも、ない。
 周囲の、中国やタイ、ベトナム、カンボジアなどの国々と比べてしまうと写真の題材には乏しいし、文章にまとめるのにも悩んでしまう。
 ただ、なんにもないとはいっても、人の心はてんこ盛りだ。温かく優しく素朴でたおやかなラオスの人々が醸し出している空気のなかを歩いていると、幸せな気分になってくる。物余って心なしの国日本から出掛けていくと拍子抜けするのと同時に、気持ちが和んでくる。緩んでくる。見るべきものも物もないことで、却って気持ちが解き放たれる。自由になれる。安らかで、満ち足りた気分になってくる。あまりの居心地のよさに、異国に身を置いていることを忘れてしまう。ラオスに同化してしまっている。
 流れているのか、止まっているのか定かには見えぬ母なる河メコンにいつしか身を任せて流れるようにラオスを旅している自分の姿が、そこにあった。