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Special

SUZUKI Kunihiro

沈黙の叫び

メキシコチアパス州

 1994年1月1日未明、メキシコ、チアパス州内の6つの町や村に、顔を黒い目だし帽でおおい、手に武器を持った人々が突然あらわれた。彼らは、市庁舎やラジオ局を占拠し、いくつかの地域では政府軍と交戦した。サパティスタ民族解放軍(EZLN)と名のるインディヘナのグループが、武装蜂起をおこしたのだ。副司令官マルコスを通じて発表されたコミュニケには、電気の供給や教育問題、地域医療といった生活のための基本が要求されていた。そして、この日から発効される北米自由貿易協定(NAFTA)を、「先住民族に対する死亡宣告書」といちづけ、明確に反対の意志を表明した。和平会談の中では、大統領選挙の改正も要求している。彼らは、自分たちのかかえる問題を、先住民だけの問題としてとらえず、メキシコ人全体の問題としてとらえていた。そして、その要求は、地域性からはじめられるが、NAFTAの拒否という世界性へとつながる。彼らの行動は、政府の思惑とは逆に、インターネットなどをつうじて世界中に知られ、多くの人々の共感と支持を得た。しかし、要求は受け入れられず、その後、政府軍の総攻撃によって森の奥へと撤退していった。EZLNと政府は、現在、膠着状態にある。そして、武力を含めた政府の圧力は現在も続いている。私は、'98年の夏、彼らの拠点の村、ラレアリダ・トリニダとオべンティックを訪ねた。村の様子は、時間がゆっくりとすすんでいるメキシコのどこにでもあるインデへナの村という印象だった。男たちは早朝から畑に行き、女たちは川で洗濯や家で家事をしている。一見、のどかにみえる村の様子も撮影を始めると一変した。村の人々にカメラをむけるとみんな顔をバンダナでおおった。村人たちにとって素顔を公にすることはおおきな危険を伴う。村人たちが、バンダナをはずし、素顔でカメラの前にたてる日はいつくるのだろうか。