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 昔は、暮れともなれば決まって毎日町をほっつき歩いていた。
 東京の町のそれなりの情感を身体で感じていたかったからだ。足早に家路に急ぐ人や、クリスマスも正月も俺にはないという顔をして働いている人のそばをすり抜けて、町から町へと移動する楽しみは格別のものがあった。
 きのう、しばらくぶりに入谷、根岸、谷中、千駄木、駒込、巣鴨と歩いた。まだ十分横丁を曲がれる楽しみを持っていることを素直に喜べたものの、町が急速にそのディテールを失っていることを実感した。帰りに都電に乗り、一番前に陣どって前方に続く線路を見ていたら、なんだか、「あの町」からこんなに遠ざかってしまったことがとても悲しく思えてならなかった。
 そんな、町とのささやかな関係を無視するように、いかにも暮れという時間が流れていく。このデジタルめいた連なりに嫌悪感をこめながら、しかし、どこか一時の華やかさに期待を抱き、頼りげのないシャッターを押すのだ。  12月24日  大西みつぐ


大西みつぐ
1952年  東京生まれ
1974年  東京綜合写真専門学校卒
1985年  「河口の町」で第22回太陽賞
1993年  「遠い夏」で第18回木村伊兵衛賞
写真集に「WONDERLAND80-89」。個展多数。
東京綜合写真専門学校講師、東京カメラ倶楽部会員
データー:Apple QuickTake100 &150

町があるから生きていける。町はいつでもそこにある。
大西みつぐ絵葉書帖2「町の灯り」97年1月発売予定・定価600円
mole(四谷)・平永町橋ギャラリー(神田)・アートグラフ(銀座)ほかで発売予定。